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【ネタバレ注意】湊 かなえさんの小説「物語のおわり」を読んだ感想

湊かなえさんの小説「物語のおわり」を読みました。 

 

読了時点での感想を書き綴ります。ネタバレしてますので未読の方はご注意ください。

 

 

 あらすじ、というか本書の構成

新境地!

あなたならどんな結末にしますか?

「未完の物語」を手にしたとき、新たな人生の歯車が動き出す。

本書の帯にはこう書かれています。

 

本書は変わった構成になっていまして、まず最初に「わたし」こと「絵美」という少女の視点の話が書かれています。

 

 

山間の田舎町に生まれた絵美は一度も町の外に出たことが無い。

いつも遠くを見つめながら、山の向こうの未知なる世界に思いを馳せる。

そんなとき、実家のパン屋の常連だった「ハムさん」と出会い、淡い恋心を抱く。

いろいろあってハムさんと婚約した絵美だが、東京の有名な小説家に認められたこともあり、小説家になる夢を叶えたい思いに駆られる。

ハムさんも両親も猛反対!こっそり町を抜け出そうと駅に向かうも、そこにはハムさんが待ち構えていて・・・

 

 

物語はここで途切れています。この「未完の物語」は北海道を一人旅する人たちの手から手へと渡り歩くことになります。

 

ある人は、病気を抱えながらも子どもを出産することの悩みを抱えています。

ある人は、写真家になる夢を絶たれ実家の稼業を継がねばならぬことに苦悩しています。

ある人は、愛娘の進路のことで親子喧嘩。子どもの夢を応援すべきかどうか思い悩んでいます。

 

様々な「人生の岐路」に立たされた人たちが、「絵美」の物語の続きをどう考えるのか。皆、それぞれの人生経験と価値観を元に十人十色の物語を紡ぎだします。

 

本に挟まれた作者のメッセージカードの演出がニクイですね。

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ハムさんの人物像から、物語のおわりを推測する

正直僕はこの「ハムさん」という人を好きになれませんでした。確かに絵美に対しては優しく紳士的に接してくれます。絵美とハムさんの出会いが今からおよそ50年ほど前だったという時代設定を考えれば、当時ではかなり理解のある優しい男性に分類されたかと思います。

 

だけど、絵美が小説家の夢を追いたいと告げたときは猛反対。絵美が弟子入りしようとしていた作家は女癖が悪い噂があり、そんな男の元へ送り出すことに婚約者として反対するのは当然かもしれません。

 

しかし、もし小説家を目指すだけなら何も誰かの弟子にならなくても、出版社に直接持ち込むなり、小説コンテストに応募するなりといった道もあるはずです。もし絵美に本当に小説家の才能があるならば、途中の道順を変更したところで最後は小説家のゴールに辿り着くはず。

 

それなのにハムさんは、「君の小説は素人が書いたものにしては面白いが、お金を出して読みたいと思うほどのものではない」と一刀両断。

 

ハムさんは絵美に対し「いろんな世界を見せてあげたい。新しい世界に触れたときの君のわくわくした顔が好きなんだ」と言っていたにもかかわらず・・・

 

「新しい世界を見て欲しい」ではなく「新しい世界を見せてあげたい」というのがキモなのかもしれません。結局ハムさんが絵美に優しく接してくれるといってもそれは所詮自分のコントロール下にあるときだけなのではないか、だからこそ絵美が自分だけの力で新しい世界を見に行こうとするときに、強行に反対するのではないか・・・

 

ここにハムさんの、自分のほうが人間として各上である、相手より常に優位でいたい、という人物像を僕は感じ取りました。

 

そんなハムさんだから、きっと駅でも「自分が正しいことを言っていて、君は間違っている」という論調で絵美を論破し、無理やり連れて帰ってしまったに違いない。僕の頭にはそんな物語の続きが浮かびました。

 

実際の結末について

※ここからは特に物語の核心部分に触れています。

 

 

本書の最後で「絵美」と「ハムさん」の現代の物語へと話はシフトし、「物語のおわり」を読者は知ることになります。結局ハムさんは東京の女癖の悪いという噂の小説家の元に送り出すことには反対するものの、自分のツテで出版社を絵美に紹介して書籍出版を実現します。しかしほとんど売れず、それが絵美にとっての最初で最後の本となります。絵美は小説家の夢に見切りをつけ、実家のパン屋を継いでハムさんと結婚。

 

読者が少々拍子抜けするような、とても現実的な「物語のおわり」。現実はこんなものなのかもしれませんね。

 

ハムさんは、(孫の萌ちゃんへの接し方を見ていても、多少頭が固くて独善的なところはあるものの)絵美への思いは本物だったということですね。僕の見立ては間違っていたのかも、というか、まんまと作者の思惑通りに考えてしまった感が否めません(笑)

 

友人を傷つけてしまったことを負い目に不登校になってしまった孫の萌ちゃんに対し、絵美が語った言葉がとても印象的でした。

「萌ちゃんが今できる麻奈ちゃんのための最善策を考えるの。いい、勘違いしてはダメ。萌ちゃんが楽になる方法じゃない。麻奈ちゃんが何を求めているのかを考えるの」

 

恵美が望んでいたのは東京の小説家の弟子になることではなく、小説家になって自分の本を出すこと。それをちゃんと見極め、実行に移すことの出来たハムさん。そんなハムさんだからこそ、絵美もますます好きになったに違いない、と思いました。