近年社会問題として取り上げられることが多いパワー・ハラスメント(パワハラ)問題。定義や種類、対処法についてまとめました。
パワハラの定義
パワハラとは和製英語であり、定義には諸説ありますが日本で始めて定義されたパワハラの基準は下記になります。
パワーハラスメントとは、職権などのパワーを背景にして、本来業務の適正な範囲を超えて、継続的に人格や尊厳を侵害する言動を行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与える
また、上記のような行為を「執拗に繰り返される」ことをパワハラの要件とする説もあれば、「1回のみでもパワハラとする」説もあり、専門家によっても意見の分かれるところのようです。
パワハラの種類
パワハラにはいろいろな種類があります。
人によっては「え?これってパワハラになるの?」と驚くケースもあるかもしれませんが、パワハラは民事裁判や刑事裁判の対象となることもある重大な問題です。
自分が加害者にならないためにも、また、自分が被害を受けた際にパワハラであると認識できるためにも、それぞれの種類のパワハラの特徴を知っておくことは大事です。
身体的侵害
最もわかりやすいパワハラ事例と言えます。殴る、蹴るなどの直接的な暴力による嫌がらせです。また、休憩を与えない、椅子に座らせず立たせ続ける、といった身体への嫌がらせも含まれます。
精神的侵害
人前での度を過ぎた激しい叱責などにより、相手の名誉や人格を侵害する行為を指します。精神の傷は肉体の傷と違って自分からも他者からも見えづらいので、なおさら注意が必要です。
人間関係からの切り離し
仲間外れ、意図的な無視などによって、相手の人間関係を孤立させることを指します。
過大な要求
相手のリソース(能力、時間など)を明らかに上回るノルマを課すこともパワハラに含まれます。
ノルマが達成できない場合、殴る・蹴るなどの暴行を加える(身体的侵害)、人前でノルマ未達成をあげつらったり執拗に詰める(精神的侵害)、など、他の種類のパワハラと併用される場合もあります。
過小な要求
逆に、明らかに簡単な仕事(コピー取り、お茶くみ、シュレッダーなど)のみを延々とやらせつづけることもパワハラとなります。毎日単調な作業のみをさせられつづけることは精神的な影響も大きく、精神的侵害へとつながる場合もあります。
個の侵害
部下のプライベートに不必要に踏み込みすぎることもパワハラの対象となります。特に相手が女性の場合(最近は男性でも)、パワハラだけではなくセクハラ事案となる場合もあります。
パワハラの対処法
実際にパワハラ被害にあった場合どうすればいいか、まとめました。
相談する
1人で抱え込んでいても事態が明るい方向に向かう可能性は低いので、まずは会社側に相談することをおすすめします。
最近はパワハラは深刻な社会問題であると認知されつつあり、会社側としてもパワハラ問題を放置して会社の社会的信頼を下げるよりも解決に乗り出す機運が高まっています。
もちろんセンシティブな問題なので相談しづらいことと思います。会社によっては匿名の相談窓口を設置しているところもあります。積極的に活用していきましょう。
パワハラとは少し例が違いますが、僕が昔いた部署のメンバーが全員月間150時間~200時間を越える残業を強いられ参っていたことがありました。
そんなとき妻が会社の匿名相談窓口に、
「こんな長時間残業はおかしい!夫が倒れてしまう!」
と訴えてくれて、本社の社長が直々に乗り込んで状況改善に動き、残業時間が減ったことがあります。妻にとても感謝しています。
逃げる
もしも会社側に相談してもなかなか動いてくれず、事態が好転しない場合は、そんな会社はとっとと見切りをつけて辞めてしまうのも手です。
「逃げる」というとネガティブなイメージがありますが、たった一度の人生、つまらない会社に潰されるくらいなら逃げたほうがよほどマシな場合も多いです。
幸い現在は労働者の売り手市場なこともあり、転職市場は賑わっています。いままでの経験を生かして同業他社への転職を試みるのも良いですし、まだ若い方なら思い切って他業種に飛び込んでみるのも手です。
各業界の職種をイラストで紹介している本がありますが、こういう本でいろいろ職種を研究してみるのも面白いですね。
戦う
「何故自分は何も悪くないのに、逃げなければいけないんだ!自分に対してパワハラを働いた人間に一矢報いないと気がすまない!」
と考える人もいるでしょう。気持ちはわかります。自分がつらい思いをしているのに、加害者は平気な顔して社会生活を送っていることが許せない、民事や刑事で責任を問いたい、というのはむしろ自然な感情でしょう。
ただ、感情に突き動かされるままに動くのはおすすめしません。会社側が不祥事隠しのために加害者側につく可能性もありますし、法律素人の個人が勢いだけで立ち向かうのは分が悪いです。
相手にきっちりと責任を取らせるためにも、戦う前に証拠固めをしておくべきです。パワハラの証拠と言えばまず思いつくのは、パワハラ発言などの録音データですかね。
具体的にどんな証拠をどのように集めればいいか、どのような手順を踏んで相手を訴えればいいのか、などの詳細については、まずは法律に専門家に相談して作戦をちゃんと練っておいたほうが得策です。
裁判事例
パワハラが社会問題として扱われるようになってからまだ日も浅く、裁判事例はそんなに多くありません。
実際の裁判事例をいくつかご紹介します。
結論
本件メールの表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠くものであって、不法行為を構成する、とした上で、送信の目的、表現方法、送信範囲等を総合すると、賠償金額としては、5万円が相当と判断した。事案の概要
Xは、A社のBサービスセンター(SC)で勤務するところ、その上司である、Yが、Xに対し「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと記載された電子メールを、Xとその職場の同僚に送信した。Xはこのメール送信が、不法行為に当たるとして、損害賠償を求め、訴えを提起した。
一つ目の例は、メールにおける表現です。加害者が被害者に対し、「やる気が無いなら辞めるべき」などと書いたメールを送信したことが問題視され、不法行為として損害賠償請求が通り、5万円の賠償となりました。
直接的な暴言だけではなく、メールなどによる言葉もパワハラとなりうる判例と言えます。パワハラのタイプで言うと「精神的侵害」となります。
結論
高等学校が女性教諭に対して行った、授業・担任等の仕事外し、職員室内での隔離、別の部屋への隔離、自宅研修等の命令や、一時金の不支給・賃金の据置は違法であり、これら違法行為により精神的苦痛を与えたことから、高等学校を経営する学校法人は600万円(※地裁では400万円)の損害賠償義務を負う。事案の概要
女性教諭Xが、高等学校によりなされた授業・担任等の仕事外し、職員室内での隔離、何らの仕事が与えられないままの4年6ヶ月にわたる別室への隔離、5年以上にわたる自宅研修等の命令や、一時金の不支給・賃金の据置は、Xが組合員であることを理由とする不当労働行為であると共に、業務命令権を濫用した違法は命令であり、これらは人格権等を侵害する不法行為に該当するとして、1000万円の慰謝料を請求した事案
こちらは高校教諭が故意に仕事を外され、職員室での隔離などが行われたことに対するパワハラ認定です。1000万円の慰謝料請求に対し、600万円の損害賠償が認められています。
パワハラのタイプで言うと「過小な要求」「人間関係の切り離し」「精神的侵害」が複合的に絡み合っており、より重い賠償命令が下された形です。