中世ヨーロッパ風の世界を舞台にした物語と言えば、剣と魔法が支配するファンタジー・・・というのが定番ですが、本漫画はちょっと風変わり。
剣や魔法が支配した「力の時代」から時は流れ、経済と法律の支配する「平和な時代」。駅逓局(えきていきょく)に勤めるハーフエルフの配達人「吉田」の苦労と情熱の物語です。
竜と勇者と配達人
本漫画の世界観と面白さを端的に紹介するには、漫画タイトルともなっている第2話「竜と勇者と配達人」が手っ取り早いですね。
第2話「竜と勇者と配達人」より
勇者様ご一行と言えば、伝統的な組み合わせ「勇者」「戦士」「僧侶」「魔法使い」に代表されるように、せいぜい数人程度というのがRPG的世界のお約束ですが、この漫画の勇者様ご一行はご覧の通りの大所帯。パーティ中核は「勇者」や「戦士」、「魔術師」といったお約束の面々ですが、それに加えて各地で続々と加わる非正規の傭兵集団、そして「刀鍛冶」「カレー係」「配達人」などといった非戦闘員も。
これだけ仲間が多いと、誰かが死んでも「そもそも、そいつ誰?」というノリです。RPG的物語だと仲間の死は、ダイの大冒険のポップの死のようにお涙必至の展開になるものですが、そんな定石はこの漫画には通用しません。
何故こんなにも大所帯のパーティが成り立つかと言えば、ひとえに勇者様ご一行の冒険がビッグなビジネスチャンスだからに他なりません。
第2話「竜と勇者と配達人」より
竜クラスの大物モンスターなどを勇者が討伐しようものなら大騒ぎ。竜の体はレアな素材の宝庫です。そしてそれら素材を加工してアイテムにして流通網に乗せるためにも、多くの専門家や職人が必要。金儲けのタネには事欠きません。
竜退治の知らせを聞けば、このビッグウェーブに乗り遅れるなとばかりにさらに人が押し寄せてきます。
竜を討伐した場所には1つの村と工場が出来上がったりするほどです。金鉱を掘り当てたようなもの、と本書内では表現しています。
かようなほどに勇者様ご一行の冒険は経済の発展に寄与しているわけですが、経済の公正公平な発展のためには法整備も欠かせません。例えば、モンスターを倒した後の経験値分配なども後々揉めないようにルール決めがされており、役所への申請が必要になります。そのための経験値記録官も冒険には同行します。
第2話「竜と勇者と配達人」より
上のページの左コマで白けた表情のカメラ目線を送って読者の気持ちを代弁してくれているのが、 主人公の配達人「吉田」です。吉田の主な仕事は一仕事終わった後に、街に増援要請の手紙を届けに行くという大事なお仕事。
モンスターを倒してめでたしめでたし、はい終わり!・・・ではなく、むしろ一仕事終えてからの後処理のほうが大変というイヤな感じのリアリティが存分に表現されていますw
通常、RPG的ファンタジー世界ですと、法律や経済、町人の生活ぶりなどの細かいところは適当に省略されがちなものですが、そういった諸々の裏事情が気になって仕方ない大人気ない人もいるかと思います。本漫画はそんなこだわり派の人々の大半に満足いくアンサーを与えてくれることでしょう。
同作者の「十三世紀のハローワーク」も面白い
本漫画の作者・グレゴリウス山田氏(このペンネームもなかなか秀逸なセンスw)が描いた「十三世紀のハローワーク」も中世ヨーロッパ風の世界観が大好きな人にはおすすめです。中世ヨーロッパに実在した職業をRPG風に紹介した良書です。
リアルとファンタジーの架け橋的な作品を得意とするグレゴリウス山田先生の今後の作品も期待大ですね。