「お金さま、いらっしゃい!」
というコミックエッセイのタイトルを聞いて、どんな内容を思い浮かべますか?
「あー、はいはい。最近よくあるお金に関するハウツー的な本ね」
って思うじゃないですか?いや、僕は思ったんですよ。妻がこの本買ってきたときに。
しかしこの本はそんじゃそこらのマネー本じゃありません。作者はカルト村で生まれました。というコミックエッセイを描いた高田かやさんです。その村は原則お金を持つことが許されない共同体です。
そんな村で生まれ育った高田かやさんが、村を出て初めて触れる資本主義社会。驚きと発見に溢れた毎日。まさに未知との遭遇、ゼロからスタートするお金との付き合い方。それがこのコミックエッセイに凝縮されているというわけです。
こんなんもう読むほうもワクワク感しかなく、一気に読み終わってしまいました。読了直後の感想として、特に心に残った点などをつらつら書いてみます。
お金に対する愛着、あるいは執着
高田かやさんはまともにお金を持たせてもらえなかった『村』時代の反動か、お金に対する愛着が人一倍強いようです。悪い言い方をすると、執着ともいえるかもしれません。
彼女の場合はそれが、節約への情熱だったり、保険などの金融商品に対する向学心だったり、プラスの方向に作用しているから良いものの、やはり幼いころに何かしら制限のかかった環境で育つというのは性格や価値観に影響を与えてしまうのかもしれません。
ビデオゲーム時間を厳しく制約したり、性的なものをシャットダウンしたりと、子どもに対して極端な制限を設けた状態で育てるのも(親の気持ちとしてはわかるものの)、考えものです。
選べない不自由と選ばなくてはいけない不自由
本書で高田かやさんが「選ばなくてはいけない不自由」という表現をしていて、最初はいまいち頭がついていきませんでした。「選べない不自由」ならピンと来ますけど。
高田かやさんは『村』にいたころ、着る服も、食べる物も、住むところも、すべて決められた生活でした。確かにそれは想像するだけでも窮屈で不自由な生活に感じますが、逆にいうと自分でアレコレ頭を使って考えなくてもいいということ。「選ばなくても良い自由を得ている」とも言えます。
『外』の世界に出た高田かやさんは、自分の好きなところに住み、好きなものを食べ、好きなものを着る生活へと一変。自由に彩られた毎日ではありますが、毎日自分で何かを選択しなくてはいけない毎日でもあり、「選ばなくても良い自由」は失っています。
『自由』とは一体何なのか、ちょっと考えさせられました。
バスタオル論争
高田かやさんと夫のふさおさんはとても仲が良いご夫婦のようですが、夫婦で考えが合わない点があれば納得いくまで話し合う、という点がとても良いと思うんですよね。
バスタオル論争(バスタオルを1人につき1枚使うか、使いまわすか)にしても、お互いの意見をぶつけあった上できちんと妥協点を見出しています。夫婦円満の秘訣はまさにここだと思うんです。
例えば以前読んだコミックエッセイ「離婚してもいいですか?」の夫婦は真逆で、お互い言いたいことがあってもお互いに本音をぶつけあわず、溜め込んじゃうタイプなんですよ。
夫婦といえど他人なんだから、生活習慣や性格が異なるのは当たり前。そこを埋めるには言葉によるコミュニケーションをとるしかないんですよね。
「言葉だけでは伝わらないものは確かにある。だがそれは言葉を使いつくした者だけが言える事だ」
とは銀河英雄伝説の主人公ヤン・ウェンリーのセリフですが、夫婦として仲良くやっていくために胸に刻みたいセリフでもあります。
まとめ
タイトルのイメージからしてもっとバリバリお金に関するコミックエッセイかと思いきや、中盤は料理や旅行の話なんかも多く、高田かやさんの生活全般がテーマのコミックエッセイって感じでした。
僕も妻も楽しんで読めましたし、高田かやさんファンには嬉しい一冊となっていますが、「ディープなお金の話がとことん読みたい!」という気持ちで読んだ人にはちょっと物足りない内容かもしれません。