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倉知淳氏の倒叙ミステリー短編集「皇帝と拳銃と」を読んだ感想

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倉知淳氏の倒叙ミステリー短編集「皇帝と拳銃と」を読みました。

 

倒叙ミステリーとは要するに「古畑任三郎」や「刑事コロンボ」のようなやつです。読者側が最初から犯人がわかっていて、探偵役がいかにして犯人を追い詰めていくか、という過程を楽しむタイプのミステリーです。 

 

読了直後の感想を書きます。ネタバレ含んでいる部分もあるので、未読の方はご注意ください。

 

 

『運命の銀輪』

 「あれこれとトリックに技巧を凝らしたりアリバイ作りをするからかえってボロが出る。流れに身を任せるのが一番リスクが低いんだ」

という考えの元、あまり計画を細部まで詰めずに犯行が行われるという、ある意味ミステリーへのアンチテーゼとも言うべき事件。

 

幸運にも助けられてスルスルと(犯人にとって)良い方向に話が転がっていきますが、肝心なところで運に見放されてしまった・・・というのがこの短編のミソではありますが、さすがに、

「自転車の登録番号が(盗もうとした)ホームレスの誕生日年齢にぴったり一致していたのでたまたま記憶に残っていた」

というのはご都合主義が過ぎる気がしました。

 

まあ短編集の1本目ですから、探偵役の乙姫警部の披露を兼ねた軽いジャブ、といえばそこまでかもしれませんが、ミステリーとしては少し物足りなく感じました。 

 

 

『皇帝と拳銃と』

表題作。「皇帝」と称されるほど大学内で絶対的な権力を誇る教授による犯行ですが、1本目の「運命の銀輪」とは打って変わって練りに練りまくった犯行計画。

 

犯行が露見するきっかけとなった『ブツ』の伏線の張り方もさりげなかったし、乙姫警部が犯人を追い詰める論理展開も読みごたえがありました。

 

ただ気になることとして、

「拳銃が撃たれたのにその音を聞いた人が誰もいなかった。外部に音が漏れない防音室の主が怪しい」

という推理です。確かに一理あるんですが、ここで使われた拳銃って22口径なんですよね・・・サイレンサーでもつけていればほとんど外に音が漏れないと思われますが、そういう可能性を乙姫警部は考えなかったんですかね?

 

まあ、『皇帝』たる稲見教授に乙姫警部はもっと早い段階で目をつけていたので、「疑う理由が強くなるポイントの1つ」程度に捉えていたのかもしれませんけど。

 

 

『恋人たちの汀』

この話は・・・ミステリー部分云々よりも、殺された男の醜悪さが際立ちました。犯人側のカップルに感情移入してしまって、乙姫警部が犯人を追い詰めるたびに、

「がんばって誤魔化せ!なんとか逃げ切れ!!」

と心の中で応援しまくってました。まあ、結局捕まっちゃうんですがw

 

殺害した事情が事情だけに、なんとか失効猶予ついて美凪さんと幸せになって欲しいなぁ・・・(←感情移入し過ぎ)

 

 

『吊られた男と語らぬ女』

 倒叙ミステリーに限った話でもないですが、大抵事件物の犯人って一生懸命言い逃れをしたり誤魔化したりするもんじゃないですか?まあ、捕まりたくないなら当たり前っちゃ当たり前の行動ですが。

 

ところが、「吊られた男と語らぬ女」の犯人(正確には殺人犯ではありませんが)は、とある事情から罰を受けたがっているので、自分から進んで怪しい行動や発言を積み重ねていくんですよね・・・

 

ぺらぺら話す犯人の言動のちょっとした矛盾を鋭き尽き追い詰めていくというスタイルの乙姫警部は、戸惑って逆に手こずった印象の事件でした。それでも犯人の動機の核となる部分をきちんと言い当てたのはさすがだし、女性相手への細かい気配りは古畑任三郎を彷彿とさせました。

 

 

総評

1本目の「運命の銀輪」は個人的にいまいちでしたが、後の3本はなかなか秀逸なミステリーで、乙姫警部が理路整然と犯人を追い詰めていくところは読みごたえがありました。話し方が似てるので、小説として読んでるとほとんど古畑任三郎のような感じになっちゃってますがw

 

難点を1つ挙げるとすれば、

「乙姫警部の外見特徴の説明が多すぎる」

ってとこですかね。黒づくめで色白、陰気な顔をしているからまるで死神みたいだ・・・のくだり。

 

短編毎に1回説明を入れるだけならまだわかりますが、同じ話の中でも何回も繰り返しているのは、さすがにちょっとクドイかなと思いました。