「古典部シリーズ」(アニメタイトル「氷菓」)などの著者・米澤 穂信氏のミステリー小説「本と鍵の季節」を読みました。
読了直後の感想をつらつらと書きます。ネタバレ含んで書いてますので、未読の人はご注意ください。
米澤さんらしい青春ミステリー
舞台は高校、図書委員の堀川と松倉の2人が「本と鍵」が関わる事件を解いていく本作。
- 人の死なないミステリー
- 微妙な読後感を読者に与えるほろ苦いストーリー
- やや捻くれた高校生たち
こうして特徴を並べてみるとアニメ化した「古典部シリーズ」に近い感じもしますが、主人公の堀川は自ら進んで面倒事に首を突込みガチ(作中では「面倒見が良い」「イイ奴」と評されてますが)なので、その点は古典部シリーズ主人公の折木奉太郎とは若干性格は異なります。
単純に謎解きをするだけではなく、少年達の屈折した心理描写や価値観が随所に絡んできて、米澤さんらしい青春ミステリーと言えますね。
米澤さんの小説全般に言えることですが、面白いことは面白いけど読み終わった後に謎の疲労感を感じますw
伏線の張り方が見事
ミステリー作品を標榜するからには「謎解き」要素は必須ですが、「謎」を用意するためには功名に伏線を張る必要があります。米澤さんはこの伏線の張り方がほんと上手いというか、何気ない会話や情報にしれっと伏線を隠してきますよね。
「本と鍵の季節」で特に感心したのは、「昔話を聞かせておくれよ」において松倉の語った昔話のくだりです。
偽警官が自営業者を騙し、偽警官が逮捕された話
てっきり松倉の父親が「騙された自営業者」なのかと思いきや、実は「逮捕された偽警官」のほうだったという、主人公・堀川と読者の双方を欺く叙述トリック、お見事でした。
事件のあらましをストレートに話すのではなく、
むかしむかし 具体的には六年前、あるところに自営業者がいました
と、昔話風に話すことにより、一人称をあやふやにしてしまうテクニックですが、当然何の前提もなくこんな語り口で話すのは怪しすぎるので、松倉はあらかじめ「昔話をしよう」と前置きをすることにより、昔話風の説明に自然さを与えています。
それだけではまだ、
「そもそもなんで図書委員の仕事中に男2人が昔話を語りあわねばならんのだ」
という不自然さが残りますが、本作は全編にわたって「堀川と松倉は図書室でしょーもない話ばかりしている」という前提を読者は植え付けられていますので、「まあ、この2人ならそんなわけのわからない話遊びをしても別におかしくないな」って思わされちゃうんですよね。で、まんまと松倉の叙述トリックの術中に嵌ってしまうという。
僕はわりと最後のほうまで「実は松倉の父親が盗みを働いた側」だということに気づきませんでした・・・不覚です。
アニメ化は厳しそう
学校を舞台にした文化系所属の高校生たちによる謎解きということで古典部シリーズを髣髴とさせる本作ですが、古典部シリーズのようにアニメ化が期待できるかというと・・・まあ、無理かなと思ってます。
理由として、
- 話全体が古典部に比べて暗めで、カタルシスを得られにくい
- ヒロイン不在(ほとんど唯一の女キャラである図書委員の浦川先輩ではさすがにヒロインとしては役者不足)なので絵面的に地味
- そもそもこのシリーズがこのまま続いていくかどうかも怪しい
あたりが挙げられます。うーん、こうして列記してみると、やはりアニメ化は厳しそう。
まあでも、アニメ化はともかくシリーズ物としてはもう少し続きが読みたいところです。せめて堀川と松倉の関係性が今後どうなるのか、もう少し納得感のある答えを読者に提示していただかないと、モヤモヤが残りすぎですw