「お姉ちゃん、あなたは本物なの?」
書店で見かけてなんとなく買った小説「豆の上で眠る」。ぐいぐい引きずり込まれる巧みなセンテンスで、ラストまで一気に読んでしまいました。
あらすじ
小学一年生の妹・結衣子と小学三年生の姉・万佑子。性格は違うものの、仲良し姉妹と言えるほどの仲だった二人。
ある日、神社に遊びに行った帰りに姉の万佑子は行方不明になってしまい、平和な日常が一変、結衣子にとっての悪夢の日々が始まります。
警察や両親が必死に捜索するもほとんど手がかりを掴めぬまま過ぎ行く時間。2年後、姉の万佑子が無事保護され一件落着かと思いきや、妹の結衣子はある疑念に取り付かれ、素直に喜ぶことが出来ません。
ーーーこの人は本当に私のお姉ちゃんなの?
一流のマジシャンのような小説
最近本を読もうと思っても序盤でつまづいてしまってなかなか最後まで読めないことが多いのですが、この小説は違いました。序盤からぐいぐいと引き込まれていき、先の展開が気になって仕方が無い。毎晩少しずつ読もうと思っていた小説なのですが、結局5時間ほどかけて一気に読んでしまいました。
読者を引き付ける文章の巧妙さもさることながら、この小説にはとにかく無駄が少ない。皆無と言っても良いかもしれない。登場人物の性格やバックグラウンド、何気ない会話、情景描写・・・すべてが物語を構成する上で必要なパーツとなっています。
一流のマジシャンはその所作において一切の無駄が無いと言いますが、この小説もその意味では一流マジシャンの巧妙な技と通じるものがあるのかもしれません。
【ネタバレ注意】作者が物語の最後に読者に投げかけた「謎」
さて、この小説はカテゴリー分けをするといわゆる「ミステリー」に属するかと思います。
家族しか知りえない情報を知っている姉の万佑子。DNA検査をしても、両親の血を継いだ子である可能性が「極めて高い」と診断されました。
これだけの材料がそろっていても、妹の結衣子は、姉を本物と認めることが出来ません。結局この「万佑子」は本物なのか、ニセモノなのか。
もしニセモノだとすれば一体誰なのか?本物の「万佑子」はどうしたのか?
大小様々な伏線を綺麗に回収し、最後にその「謎」は解かれることになります。
しかし、妹の結衣子はやりきれない思いを抱えて家を飛び出してしまいます。やりきれない思いは読者もまた同じ。
作者が結衣子と読者に投げかけた最後の謎。その謎は、物語ラストの結衣子の独白にすべて込められています。
どうして、お姉さんのために自分を犠牲にすることができたんですか?いや、これではない。姉妹って何ですか?いや、こんなことでもない。訊ねる相手、岸田弘恵でなくてもいい。誰でもいいから教えてほしい。
本ものって、何ですかーーー。
仮に本小説を何百回読み直しても、この謎の答えには出会えません。
この後、結衣子が無事答えにたどり着けたかどうかはわかりません。ひとつだけわかっていることは、読者はこの謎の答えを物語の外側で探すしかない、ということです。