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【ネタバレ注意】米澤穂信氏の短編小説集「満願」を読んで人間心理の業深さを感じた

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 米澤さんの短編集「満願」を読みました。フィクションとは言え、「人間って怖いな・・・」と感じました。

 

読了直後の感想を書きます。ネタバレ含みますので、未読の方はご注意ください。

 

 

人間の心理

巻末解説で杉江末恋氏も書いていますが、このミステリー小説は「人間心理」を謎の中心に据えています。トリック部分や犯人当ての部分は薄い・・・というか、ほとんどそこには謎らしい謎はありません。

 

その意味では、ミステリーの分類的にはホワイダニットに属するかと思います。

ホワイダニットとは - コトバンク

《Why done it?の略。「なぜおこなったか」の意》犯行に至った動機の解明を重視した推理小説

 

  • 『夜警』の気弱な新人警官・川藤は、何故発砲したのか?
  • 『柘榴』の美しき中学生姉妹は、何故養育者に母親ではなく父親を選んだのか?
  • 『関守』では、何故なんでもないゆるやかなカーブの山道で死亡事故が度々発生しているのか?
  • 『満願』の妙子は、何故矢場を殺したのか?

等々。

 

『関守』は若干毛色が違うとはいえ、どの短編も”犯人”的人物*1の単純ならざる心理が描かれています。

 

また、”犯人”的人物を取り巻く他の登場人物の心理も複雑に絡まった後に「真実」が読者に提示され、ぞくっとする読後感を与えてくれます。

 

特に、表題作である『満願』は妙子の殺害動機の意外さもさることながら、

「何故妙子が夫の病状を常に気にしていたのか?」

この点の謎が明らかになったときは鳥肌モノでした。

 

妙子と夫の重治は円満夫婦には程遠い描かれ方をされていましたが、まさか「家宝を守るために夫の死を待ち望んでいた」とは。もしこの夫婦に何かあるとしたら「夫の横暴な振る舞いに耐えかねて恨んでいた」とかそんな感じの関係や展開かな、と思っていたのですが、想像とは全く明後日の方向を突かれました。さすがは米澤さんです。

 

「幽霊や超常現象なんかよりも、本当に怖いのは人間だ」

とは良く言われることですが、この短編集を読んで改めてそれを感じました。

 

 

裏表紙の作品解説を読んだのは失敗だった

本書に限った話でもないですが、

「裏表紙の作品解説に謎の革新的な部分がさらっと書かれている」

ってのは案外ミステリーあるあるかと思います。

 

普通はそうならないようになるべく抽象的にふわっと書くようにしているのかもしれませんが、「人間心理」が話のキモであるこの小説ではそれが裏目に出た気がします。

 

というのも、短編『柘榴』の解説で、

美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」

 などと書かれているものですから。

 

ほんの一行解説なので本来ならこのくらいじゃネタバレにはならないのでしょうけど、繰り返しますが、この短編集の作品は心理描写がキモなので・・・

 

中学生姉妹が母親ではなくて父親を選んだ動機が「性愛」である、というのが途中でなんとなくわかっちゃったんですよね。この作品の謎のキモはもうひとつあるので、ここだけで全てが台無しというわけでもないですが、やはりちょっと「裏表紙読むんじゃなかった」という後悔があります。

 

 

米澤さんの小説はやはり面白い

米澤さんの小説を読むのはこれで3作目ですが、やっぱ面白いですね。文体が読みやすいのもあると思いますが、最初の数ページ読んだだけでどんどん物語の中に引き込まれてしまい、読みだすと止まりません。

 

今度は長編の『ボトルネック』あたりを読んでみる予定です。 

 

 

※追記

ボトルネック読んでみました。ミステリーとSF要素が融合された読み応えのある作品でしたが・・・読後感はかなり重いですw

詳細なレビューは下記記事で。

www.ishikihikui-kei.com

 

*1:必ずしも刑事事件の犯人ばっかりでは無いので、このように表現しておきます