「君の名は」「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」など、数々の名作アニメを生み出した新海誠監督の新作「天気の子」を観てきました。
最初は同時期に発売した小説版を買って読もうかとも思ったんですが、
「小説はいつでも読めるけど、映画館で観れるのは今だけだよ!」
という妻の言葉に背中を押され、映画館まで足を運びました。
結論から言うと、予想を裏切らない面白さでした。
あらすじとかはWikipedia(天気の子 - Wikipedia)にわかりやすく書いてあるので、あえて書かず。この記事では視聴済みの人に向けてがっつりネタバレしつつ感想を書きます。未視聴の人はご注意ください。
リアルな社会とファンタジーな少女(の能力)
正直、最初の30分くらいは退屈・・・というか、やや苦痛ですらありました。というのも、描かれている東京の街が「リアル過ぎた」からです。
- 未成年の少女を風俗に勧誘するスカウトマン
- 高校生にご飯とビールをたかる売れないライター
- 就活落ち続けている女子大生
- 態度の悪いネットカフェ店員
などなど、出てくる人物の属性が妙にリアリティあるというか、多少のアニメ的デフォルメはあるにせよ、現実的なキャラばかり。そんな人たちが織り成す街が、超美麗なグラフィックで描かれているわけです。
この時点での僕の感想は、
「なんでアニメの中でまでこんな微妙に現実感ある映像を見せられなきゃならんのだ」
でした。
そんな雰囲気の中登場した「天気の子」こと、ヒロイン・天野陽菜は異色でした。
といっても、キャラ造形自体はいたって普通。性格こそ「ザ・アニメのヒロイン」という感じで良く言えば理想的、悪く言えばややご都合主義的な感じではありますが、まあ常識の範囲内の性格と言えなくもないです。
そんなヒロインの異色なところは、映画全体のテーマでもある「天気の子」たる能力、「100%の晴れ女」。
彼女が天に祈るだけでどんな豪雨の中でも局地的かつ短時間的に晴れ間を呼び込むことができる。その様が新海誠クオリティ全開の幻想的な絵で表現されるものだから、それまでの微妙に嫌な感じの現実感と相まって、「リアル」と「ファンタジー」の二重奏が奏でられます。このコントラストのつけかたはお見事でした。一気に物語の世界の中に引き込まれていきました。
少年の全能感と中年の妥協感
もうひとつ、コントラストの見事さを感じたのは「少年」(子ども)と「中年」(大人)の対比です。
この作品、主人公・森嶋帆高の親は健在だけど作中には登場せず、ヒロイン・天野陽菜は親を亡くして弟と二人暮らし、という「親不在」の物語です。
売れないライターの須賀圭介が物理的な意味では穂高の保護者のような感じにはなりますが、精神的な意味ではあまり主導的な存在にはならず、穂高と陽菜たちは基本的に子どもだけで判断・行動します。
僕が働いて陽菜と凪を養うよ、3人で暮らそう!
世界よりも陽菜を取る!
こんなセリフを堂々と言い切れる程度には、穂高は全能感に溢れています。正確に言うと、子どもゆえの世界に対する無邪気な期待のようなものを感じます。若さゆえの輝きですね。日々の生活に疲れた中年の僕には穂高は眩しすぎました。
そんな僕が共感することができたのは、中年ライターの圭介です。良くも悪くも現実主義。家出少年の穂高に過去の自分を重ねて世話を焼きつつも、穂高がらみで警察の訪問を受けた際は、
「他人の子どもより自分の子どもだ。今俺はゴタゴタを起こすわけにはいかない」
と、あっさり穂高をクビにします。
姪っ子の夏美(大学生)からはその行動を「ダサい」という表現で責め立てられますが、僕はこの圭介を責める気にはなれません。
大人になるということは自分の正体に気づくということです。いつまでも無限の可能性なんて信じちゃいられない。自分一人にできることなんてたかが知れている、ならばその限られたリソースを使う優先順位をつけるのも致し方ないと思うんですよね。
事故で亡くした最愛の妻の忘れ形見である娘を引き取るために、穂高を見捨てるという決断をした圭介を*1、人の親たる中年男の僕にどうして責めることができましょうか。
自分の可能性を信じて考えるよりも先に行動する純粋な穂高(少年)と、世の中の酸いも甘いも噛み締めて現実に妥協しつつ最適解を模索している圭介(中年)、この2人を夏美は「似た者同士」と評していますが、僕にはとても対照的な、コントラスト鮮やかな2人に見えました。
ハッピーエンド(?)と細かいモヤモヤ
物語は紆余曲折の末、一応ハッピーエンド(?)的な終わり方をします。まあ、東京が半ば沈没した状態なのをハッピーエンドと呼んでいいかどうかは悩ましいところですがw
ただ、細かいところでモヤモヤが残りました。
煙草を吸うなど生活がだらしないことを理由に娘を引き取れなかった圭介が、警察のお世話になったにも関わらず最終的に娘を引き取れたところとか、
そもそも、天気の子が人柱になった後、異常気象と引き換えに戻ってこれるのか?というところとか。
ただまあ、そういう細かいところをあえて説明せずにさくっと流して物語を収束させるのは新海誠流といえばそれまでですが。
全体としては名作と呼んで差し支えない映画だったとは思いますが、個人的には前作の「君の名は」のほうが1枚上だったかなとも思います。「君の名は」は観終わったあとしばらくぼぅっとしてしまいましたが、本作はそういう心を持っていかれるほどではなかったな、と。
2回3回と繰り返し観ればまた違う感想になるかもしれませんが、とりあえず初回視聴直後の感想としてはこんなところとなります。
*1:まあ結局、一人の女の子を想う穂高の感情にほだされて、半ば捨て身で助けに行くわけですけどね。アニメ的と言えばアニメ的な展開。