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ロバート・F・ヤングの短編「主従問題」を読んだ感想

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海外SF作家ロバート・F・ヤングの短編「主従問題」を読みました。ネタバレ含みつつ感想を書きます。星新一の短編「繁栄の花」のネタバレもありますので、未読の方はご注意ください。

 


「主従問題」は短編集「たんぽぽ娘」に収録されています。

 

 

あらすじ

不動産の売買を手がける男性フィリップは仕事で「ヴァレービュー」という名の村を訪れる。その村はゴーストタウンを思わせる静かさで、クライアントの女性ジュディス以外は誰もいない。

 

村人は全員「フルーガーズヴィル」という街に引っ越してしまい、ジュディスも近いうちに引っ越す予定だと言う。仕事の依頼は「ヴァレービューを丸ごと売却したいので、査定と売却斡旋をお願いする」という、とんでもないもの。

 

後に、実は村人全員が引っ越した「フルーガーズヴィル」とは、地球上の街では無いことが判明する。村の名物発明家が偶然作り上げた装置によって、シリウス星系第21番惑星に移住し、そこで理想郷を築いている村人達。

 

ジュディスの愛犬ツァラトゥストラの手引きもあり、なんやかんやでジュディスと恋仲になったフィリップもその星(シリウス21)への移住を決意し、末永く幸せに暮らしましたとさ。

 

 

・・・という表向きの話の後に、本文中でツァラトゥストラの口よりこの物語の真実が語られます。

 

シリウス21への移住を可能とした装置は実はツァラトゥストラたち犬に酷似した種族が作ったもので、無機物は作れても有機物は作り出せないその種族は、自らの召使いとして人間を利用することを思いつく。

 

表向きは人間達のペットとして、めでたく「何もしなくても人間達が自分たちの食べ物を生産して与えてくれる世界」という真の理想郷を作ったのだった。

 

 

「繁栄の花」との類似性

読み終わった直後、「星新一の『繁栄の花に似てるな」と感じました。

 

「繁栄の花」のあらすじは、ざっくりこんな感じ↓

 

最初友好的なふりして地球人に近づいてきた異星人の「メール星人」が「繁栄の花」という名の見事な花を友好の証として地球人に進呈。

 

その花を地球人は勝手に地球上で栽培して増やすのですが、実はこの花はいつまで経っても枯れない花と言うことが判明。

 

枯らすためにはメール星にしかいない蜂の力を借りることが必要で、メール星人は働き蜂をぼったくり料金で地球に提供(女王蜂はメール星でしか生きられない)、かくしてメール星は地球を経済的な植民地のような状態にしてしまう。

 

メール星人が「我々がこの花を『繁栄の花』と呼ぶ理由がおかわりでしょう?」とドヤる様がなんとも憎々しく・・・上手いことやったものです。

 

※星新一の「繁栄の花」は短編集「宇宙のあいさつ」に収録されています。

 

「他の種族を自分たちの利益に都合良く利用するため、友好的なふりをして接近する」という点において、「主従問題」と「繁栄の花」は似ています。

 

 

ツァラトゥストラたちのほうが上手くやっている

類似性はあるものの、「繁栄の花」のメール星人より「主従問題」のツァラトゥストラたちのほうがずっと上手くやってると思うんですよね。

 

というのも、メール星人たちは「今」しか見ていないんです。なるほど、たしかに繁栄の花を枯らせることのできる「蜂」はメール星人たちの助けなくては入手できない。でも、もし将来的に地球人が人為的に「蜂」に相当する生き物を作り出すことができたら?あるいは、それ以外の何かしらの手段で花を枯らせることに成功したら?

 

長年搾取され続けた地球人がメール星人に復讐をする可能性は大いにあるでしょう。武力を持たないメール星人たちは途端に窮地に立たされます。

 

その点、ツァラトゥストラたちは普段は普通の犬として振舞うことで、地球からの移住者達にとっての最良のパートナーの立ち位置を占めています。

 

人間との共存共栄を守るために(実際は『犬』側が人間を良いように使うわけですが)、最初街を用意する際に「自分達の家を『ご主人様』よりも立派にしてはいけない」という注意事項を仲間達に指示するほどの徹底振りです。そうやって人間達との信頼関係を築きつつ、人間達の子の世代、孫の世代まで見据えて少しずつ対等の関係性を築こうとしています(『犬』たちは大変長寿な生き物で、何百年と生きるようです)。

 

先を見据えたこの慧眼、見事という他ありません。